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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4237号の1 判決 1967年6月07日

原告 吉本五郎右衛門

右訴訟代理人弁護士 林藤之輔

同 中山晴久

同 馬瀬文夫

同 和田誠一

被告 大栄興業株式会社

右代表者代表取締役 坂井又太郎

右訴訟代理人弁護士 木下清一郎

同 福岡彰郎

同 市原邦夫

主文

被告は、原告に対し、別紙第一表記載の各建物(所在位置は同表添付の図面参照)を収去して大阪市北区梅田三番地宅地二、一一六坪三合九勺を明渡し、且つ昭和二九年一一月一四日以降右明渡済に至るまで一ヶ月坪当り金九一九円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、金銭給付の部分に限り、原告が金一、〇〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

当事者双方の申立

原告は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告の請求原因並に被告に対する反論

一、本件宅地の賃貸借契約の成立

原告は、昭和二一年七月一日被告(当時の商号は吉本復興建設株式会社であったが、昭和三〇年八月一六日現商号に変更した)に対し、原告所有の大阪市北区梅田三番地宅地二、一一六坪三合九勺(以下、本件宅地という)を建物所有の目的で、地代は一ヶ月坪一五円、毎月払いと定めて賃貸し、昭和二四年六月以降は右地代を一ヶ月坪二五円〇一銭に値上げしていた。被告は右借地上に現に別紙第一表記載の建物を建築所有して、本件宅地を占有している。

≪以下事実省略≫

理由

一、原告主張の請求原因一の事実については、当事者間に争なく(但し、建物の現構造については争いがあるが、建物の同一性はあるものと認める)、昭和二五年七月一一日の第二二五号政令で地代家賃統制令が改正されて同年八月一日以降地代家賃の統制が一部撤廃されることになった前後頃に、原告が被告に対して右地代の値上を申し入れ、その後地代の値上をめぐって当事者間に紛争を生じ、被告が昭和二六年一一月二六日、原告を相手方として、本件宅地に対する昭和二五年八月一日以降の地代額の確定とその分割支払を求める本件調停の申立をしたこと、昭和二六年一二月五日の調停期日を初回として本件調停手続が進められている間に、別紙第二表記載のとおり、原被告間に原告主張の第一期ないし第五期における各地代の合意が順次成立したこと、他方、右合意地代の支払方法も調停において協議がなされたが、終にその協議が調わず、昭和二九年一〇月一八日調停不成立として手続が打切られたことは、いずれも当事者間に争いのないところである。

二、そこで、まず、本件合意地代は、被告主張のごとく、地代の支払方法の協定成立を条件として成立したものであるのか、それとも原告主張のごとく、確定的合意として、支払方法の協議不調によっても効力を左右されないものであるのかについて、検討する。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告主張の了解の存否

被告は、貸店舗等の経営を事業目的とする会社であって、本件宅地に百三十数戸の貸店舗を建築して数十人の借家人に賃貸し、その家賃収入で地代を支払うのを経営の常態としていたので、本件調停申立書においては、これらの事情を述べて、地代額の確定とその分割支払を求めているが、その申立書には、地代の分割支払の協定が成立しなければ地代額も確定しないとする趣旨の両者の不可分関係の点までは明示されていない。また、本件調停の当初、調停委員及び原告側は、調停の進め方を協議したが、その際、「地代額の話合いができても、地代の支払方法が決まらない間は、地代額は確定しない」との了解ができたわけではない。その際、関係者間には、調停の進行方法につき、「まず地代の額について協議して合意に達したうえで、その支払方法を協議する」ことが了解されたにとどまる。

2  合意地代成立の経過

本件宅地には、被告の開設した私道があり、被告経営の貸店舗の中には、一〇坪未満のものや併用住宅が多数存し、省線大阪駅に相対するもの、南北線街路に面するもの、裏道路に面するものなど、その位置、環境、繁閑は一様ではなく、また、本件賃貸借には、終戦後の混乱期において第三国人などの不法占拠から本件宅地を防衛した持殊事情もあった。そこで、被告は、本件調停において、これらの事情を縷述し、本件宅地については昭和二五年八月一日以降も地代の統制が全面的に存続するとの見解の下に、公定地代九〇円五六銭(一ヶ月坪当り。以下同様)を主張し、統制が一部解除されたとしても、地代の一律値上に強く難色を示した。これに対し、原告は、本件宅地の地代の統制は全面的に撤廃されたとして、自由地代二〇〇円を強く主張した。本件宅地の利用状況によると、地代統制の存続することがはっきりしている宅地部分は、七九二坪八合、地代統制の解除された事業用建物敷地部分は八五五坪六合六勺、地代の統制が外されたかどうかは別として、私設道路敷地部分は四六七坪九合三勺であるが(この点は争がない)、本件調停では、地代額の話合いを進める方法として、本件宅地の全坪数に対する一ヶ月一坪当りの平均地代によることとし、被告の提出した資料を基にして意見調整の結果、昭和二七年一二月一〇日の期日において、便宜上、統制撤廃部分を六割、統制存続部分を四割と仮定して平均地代を案出することに了解が成立した。本件合意地代はかかる意味における平均地代として合意されたものである。

右了解の基準に従って地代増額に対する双方の意見を調整した結果、ようやく昭和二八年三月九日の期日において、第一期の地代を一四〇円とすることに妥結した。右妥結に至るまでの間にすでに昭和二六年一〇月一日及び同二七年一二月一日の二回に亘る公定地代の改訂期を経過していたので、原告は、右第一期地代の妥結した期日において、第二期以降の地代の計算は第一期の合意地代額に公定地代の値上率を乗じた額とすべきことを提案して、第二期につき二三〇円、第三期につき三六〇円を主張し、被告は前者につき二〇〇円、後者につき三三〇円を主張したが、結局昭和二八年三月二五日の期日において、双方は、調停委員の提案を受諾し、第二期の地代を二一五円、第三期の地代を三四五円にそれぞれ増額することで妥結した。第四期の地代については、原告は昭和二八年四月以降の固定資産税の増徴を理由として四九三円を主張し、被告はまず据置を主張し、次いで増額するとしても固定資産税の増額分にとどめるべきことを要望し、苦心調整の末、昭和二九年二月二七日の期日において、原告は被告の申し出た四二四円を承諾して妥結した。第五期についても、原告の値上理由は固定資産税の増徴にあったが、結局昭和二九年六月一六日の期日において、五一〇円で妥結した。

本件各期の合意地代は、このように、利害の相反する当事者がそれぞれのもつ事情、利害得失を検討考慮し、幾多の迂余曲折を経て取り決められたものである。被告としては、本件合意地代を公正妥当な額と考えていたものであって、地代の額自体の取り決めを支払条件に繋らせるような話しを持ち出したことはなかった。

3  中間調停調書の作成と経過

昭和二五年八月一日から同二八月三月末日までの第一期ないし第三期の合意地代の総額は約一、三四三万円に達するにかかわらず、被告はその間昭和二五年八、九月分の地代として計一二万円を支払ったにすぎず、従って、原告側は、多額の未払地代をかかえる半面、多額の固定資産税の支払にも窮していた。そこで、原告は、第二、三期の合意地代の妥結した昭和二八年三月二五日の期日において、被告に対し、第一期から第三期までの合意地代のうち、公定地代に相当する分の一時払いを要求し、その支払がないときは、支払猶予に応じられないと主張した。被告は、支払計画をたてるため若干の猶予を要請し、同年五月七日の期日においても、家賃値上の未了を理由に公定地代相当分についても支払延期を求めたのに対し、原告はすでに被告が徴収した家賃の限度での地代の一時払いを要求した結果、結局同年五月二六日の期日において、被告は、原告に対し、昭和二五年八月一日から同二八年三月末日までの未払地代の内金として七〇〇万円を同二八年七月三一日限り原告代理人の事務所に持参支払うことを約し、その旨の差入証書(甲第四号証)を原告に交付した。しかるに、被告は右約束を履行できる見込みがなかったので、同年七月三〇日の期日において、原告側の要求を容れ、本件調停事件の一部調停として、「被告は原告に対し前記差入証書と同じ期間の延滞地代中七〇〇万円を昭和二八年八月三一日までに持参又は送金して支払うこと。不履行のときは、被告は原告に対し、右金員に対する昭和二八年九月一日以降完済まで日歩四銭の割合による遅延損害金を支払うこと。」を調停条項とする中間調停調書を作成した。被告は右七〇〇万円を四回にわけて支払い、昭和二九年一二月二九日その支払を済ませた。(差入証書、中間調停調書、七〇〇万円の支払に関しては、争いがない)。

4  覚書について

第一期ないし第三期の地代の支払条件の交渉のため、昭和二八年四月一日以降の第四期の地代の増額交渉は停とんしていたが、昭和二九年二月二七日の期日において、第四期の地代が妥結に達した際、原告代理人林藤之輔弁護士と被告代理人木下清一郎弁護士との間に、調停委員三浦徹二立会の下に、「一、本件宅地の第四期の地代は四二四円であることを双方認める。二、被告は原告に対し、本件宅地に対する第一期の延滞地代合計四、一四八、一二四円四〇銭、第二期の延滞地代合計六、三七〇、三三三円九〇銭、第三期の延滞地代合計二、九二〇、六一八円二〇銭、総計一三、四三九、〇七六円五〇銭の支払義務あることを認め、原告はその内金として八、一二〇、〇〇〇円を領収した。三、前二項の延滞地代の支払方法については、現に係属中の本件調停において協議する。」旨を約し、その旨の覚書(甲第六号証)を作成した。右協定の第一期ないし第三期の各延滞地代合計金は、前記各合意地代に基づいて算出されたものである。従って、第一期ないし第三期の本件各合意地代について、被告は原告に対しこれを再確認し、その支払義務を認めるものに外ならない。また、右覚書には、第三項の支払方法の協議が調わないときには、第一、二項の効力を生じないとする条項ないし附款は存しない。

右覚書は、その作成の直前に前記調停委員及び原被告の代理人が関与してこれとほとんど同一内容の調停条項案を作成したうえ、担当裁判官に中間調停調書の作成方を申し出たが、執行力のない調停調書の作成には応じられないとしてその作成を拒否されるに至ったので、当事者間だけで覚書を作成するという経緯に出たものである。

本件第五期の地代は、右覚書にいう第四期の地代と同様の趣旨の下に妥結に達したものである。

5  被告の対借家人関係

被告の主張に従えば、「地代の支払方法が決まらないと、地代の額は確定しない。地代の額が決まらないと、借家人の家賃の値上が決まらない。家賃が決まらないと、家賃の徴収はできない。家賃の徴収ができないと、地代の支払方法も決められない。」ということになって、循還論法に陥ってしまう。しかし、被告の側でも、原告との間に成立した合意地代を借家人に対する家賃値上の交渉の基礎とするためには、地代の額の取り決めとその支払方法とを切り離して、原告との間の合意地代を確定的のものとして取り扱う必要に迫られていた。現に、被告は、地代はいずれ値上げになることを見越して、各期毎に、従前の家賃額にある程度の値上分(当初は二、三割増し)を加えた暫定家賃を徴収していたが、第一期ないし第三期の本件合意地代の妥結した昭和二八年三月頃からは、右合意地代を基礎として、借家人に対し家賃値上の交渉をし、昭和二九年七、八月頃からは、本件合意地代を基礎として協定に達した新家賃額と徴収ずみの暫定家賃額との差額徴収の手続を進め、本件調停不調後も借家人から右新家賃額を徴収していた。

以上の事実関係を総合するときは、本件の各合意地代は、その分割支払を当然の前提として又はその分割支払の協定の成立を条件として成立したものではなく、第一期ないし第四期については、右地代の合意の成立した各時点において、少なくとも前記覚書の作成された昭和二九年二月二七日の時点において、又第五期の地代については、それが右覚書の趣旨に準じて妥結したものであるから、その合意の成立した時点において、確定的合意としての効力を有し、本件調停の不成立によってその効力を左右されないものと認めるのを相当とする。≪証拠判断省略≫

三、本件賃貸借契約の解除の当否

本件賃貸借契約における地代の支払は毎月払いの約であるから、反証のない本件においては、その支払期は毎月末に当月分を支払うべきものであり、本件合意地代が上記説示のごとく確定的合意として成立した以上、被告は原告に対し、昭和二五年八月一日以降すでに履行期の到来している本件各合意地代の割合による地代を支払うべき義務があることは、いうまでもない。そして原告が昭和二九年一一月六日到達の書面をもって、被告に対し、昭和二五年八月一日から同二九年一〇月末日までの間の、本件各合意地代の割合によって計算した未払地代合計二二、六四二、七八一円(総合計三一、七六二、七八一円より内入金合計九、一二〇、〇〇〇円を控除した金額。別表第六の九が除かれている。)を書面到達後七日以内に支払うよう催告するとともに、右期間内にその支払がないときは、本件賃貸借契約を解除する旨の条件付契約解除の意思表示をなしたこと、被告が右催告に応じなかったことは、当事者間に争いがない。そうすると、特段の事情の認められない限り、本件賃貸借契約は右催告期間の満了する同年同月一三日の経過とともに解除により終了する筋合いである。

そこで、被告の主張についてみるに、

1、被告は、右催告にかかる合意地代債権は調停不調によって不成立に帰したから、右催告は無効であると主張するけれども、その理由のないことは、上記説示に照して明かである。

2、被告は、原告が被告の経営状態を知りながら、昭和二五年八月分から五一ヶ月分という長期の値上地代の全額一時払いを催告し、しかもそれを七日以内という短期間に催告するのは、信義則に反し、無効であると主張する(被告の答弁並に主張の二、(四)、1、(ハ)参照)。

しかし、上記説示に照して明かなように、昭和二五年八月一日にはじまる第一期の地代の妥結にこぎつけるのにも統制令の改正後二年数ヶ月を要し、調停段階だけでも一年数ヶ月を要している一方、本件調停申立前にも又その調停中にも、統制令の改正とか固定資産税の増徴とかの地代値上の要因が年毎に生じているのであるから、原告が調停中に地代値上請求を次々にしたことや、地代の催告金額がぼう大化するに至ったことをもって、原告を非難するのは当らない。被告会社の経営が、多数の借家人から徴収する家賃収入をもって事実上本件宅地の地代の支払に充てるのを常態としているにしても、いやしくも被告会社が本件宅地を賃借して使用収益し、営利会社として貸店舗経営を営むものである以上、家賃収入の不足を理由にして、被告は本件地代の支払責任を軽減されるものではないし、原告が地代の分割払いを容認しなければならないわけのものでもない。ことに、第一期ないし第三期の各地代の妥結した昭和二八年三月の末日当時において、昭和二五年八月一日以降の本件合意地代の総額が一三、四三九、〇七六円に達するにかかわらず、しかも被告はその間、借家人から暫定家賃として各期毎に従前の家賃額にある程度値上げ(当初は二、三割増し)した家賃額を徴収していたにもかかわらず、被告はその間僅かに地代として一二万円を支払ったにすぎず(この点はすでに認定した)、被告のその後の内入金を差引いても、昭和二九年四月末当時においてなお一五、〇〇〇、〇〇〇円を超える合意地代が未払となっている半面、原告は主力財産である本件宅地の地代未払のため、固定資産税の滞納、これに対する延滞加算金等が累積し、昭和二九年九月当時その額が約一三、〇〇〇、〇〇〇円に達し極めて苦境に立っていた。しかるに、被告側が前記覚書の作成された昭和二九年二月二七日以後の調停期日に提示した支払条件は、いずれも原告の苦境を切り抜けさせるほどの条件ではなく、かえって地代の未払分の将来の累増が見透され、税金を賄うにも程遠いものであった(以上は≪証拠省略≫により認める)。≪証拠省略≫によると、被告は本件宅地にある被告所有の建物を担保に供して地代支払の資金の一時融通を受けうる可能性もないではなかったことがうかがわれるのであるから、本件調停で地代の支払方法を協議していた段階において、被告さえその気になれば、原告側を説得するに足る程度の条件を提示しえたであろうと推測される。従って、前記覚書及びその趣旨に従い、原告が第一期ないし第五期の未払地代の支払方法について本件調停で協議することを義務づけられたものであるにしても、上記諸般の状況に鑑みるときは、原告側が昭和二九年一〇月一八日の期日において調停打切の態度に出たことをあながち非難することもできない。さらに、地代債権についての七日の催告期間は、催告を無効ならしめるほどに短かいということもできない。結局、被告の右主張は理由がなく、採用することができない。

3、被告は、原告の本件契約解除は権利の濫用として無効であると主張する(前同二、(四)2参照)。被告の所論中、被告が本件催告前に合計九三七万円の支払をしていることは、当事者間に争いがないけれども、右内入金を控除してなお二二、三九二、七八一円の未払地代債権が残存する以上、原告の契約解除権の行使を権利濫用ということはできない。又原告が故意に本件調停を不調にさせたとか、当初から地代の支払猶予の意思がないのに、地代額についてのみ合意し支払猶予に合意しなかったことを認めるに足りる証拠はなく、その他本件解除権の行使がその動機、目的において著しく反社会的であることを認めるに足りる証拠もない。本件契約解除が多数の借家人の生活、営業に重大な影響を有することは、所論のおりであるけれども、被告の自認するところの「借家人のほとんどが原被告間の本件地代値上をめぐる紛争に傍観的態度に出て、借地人の被告に協力しなかった」という事実に徴すれば、本件契約解除の事態を招来したについては、借家人側の不協力も一因をなしているものというべく、因って起る生活、営業上の影響の結果だけをとらえて本件解除権の行使を権利濫用ということはできない。地代確定裁判手続を先行させるべきであるとの所論は、本件合意地代の不成立を前提とするものであるから、その理由のないことは、上記説示に照して明かである。結局、被告の右主張も採用することはできない。

4、被告のその余の主張(前同二、(四)、の1、(ロ)、(ニ)、3、4)は、本件調停中の合意が確定的合意としての法的拘束力を有しないことを前提とするものであるから、判断の限りではない。

以上のとおり、被告の主張はすべて理由がないから、本件賃貸借契約は前記催告期間の満了する昭和二九年一一月一三日の経過とともに解除により終了したものといわなければならない。従って、被告は、原告に対し、契約解除に基づく原状回復義務の履行として、原告主張の建物を収去して、その敷地である本件宅地を明渡すべき義務があるとともに、解除後明渡しが終わるまで被告は無権原で本件宅地に建物を所有し、地代相当の利得を得ている反面、原告は地代相当の損害を受けているのであるから、被告はこの利得を原告に返還する義務を負担するといわねばならない。≪証拠省略≫によれば、昭和二九年一一月一四日以降の本件宅地の坪当り月額地代が少くとも九一九円以上であることが認められるから、右利得額もこれと同額と認める。

四、以上の次第で、爾余の点を判断するまでもなく、原告の請求はすべて理由があるから、認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、建物収去部分については仮執行を付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 柴田和夫 裁判官岩川清は転勤のため署名押印できない。裁判長裁判官 木下忠良)

<以下省略>

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